2017年12月6日水曜日

新人奮闘日記6  そばの伊右衛門(いえもん)!?

こんにちは。商標部門の新人弁理士T.Wです。

早いもので今年も残り1ヶ月を切りましたが、判例勉強会も6回目を迎えました。

いつもはここでK部門長の動静を話題にしていましたが、先月、判例勉強会のメンバー皆さんらとの飲み会の席で、「オレのこと、ちょくちょく書いてるよなー。俺は根にもつタイプだよ」と言われてしまいました・・・。

というわけで、余計なことを書いてクビにならないように、今回は早速本題に入りたいと思います。
担当した裁判例は「伊右衛門事件」(知財高裁 平成21年(行ケ)第10378号)です。

この裁判では、以下に掲げるそば屋さんの商標「そば処 伊右エ門」(本件商標)が、ペットボトルの緑茶飲料でおなじみの商標「伊右衛門」(引用商標)と「混同」を生ずるかが主に争われました。

なお、裁判に至る経緯としては、「そば処 伊右エ門」(本件商標)が商標登録されたにもかかわらず、㈱福寿園の無効を求める審判請求により、特許庁で無効とされました(無効審決)。そこで、この判断に不服のある原告(㈲はせ川製麺所)が無効審決を取り消すべく、知財高裁に訴えたわけです。

 
本件商標                   引用商標
登録5150330号                  登録第4766195
   




30類「そばの麺」他     30類「茶」、32類「清涼飲料」他
㈲はせ川製麺所;原告    ㈱福寿園;被告  ※専用使用権者;サントリー㈱



これまで見てきた最高裁の判例や裁判例では、商標が「類似」(商標法4111号)かの争いでしたが、前回(新人奮闘日記第5弾)に続き、今回も「混同」(商標法4115号)を生ずるかの争いとなっています。 

「混同」というのは、本件を例に説明すると、おなじみの(周知著名な)「伊右衛門」を見ると、「福寿園とサントリー」の緑茶飲料と分かる現実がある中で、「そば処 伊右エ門」を目にしたときに、実際は「はせ川製麺所」の商品にもかかわらず、釣られて「福寿園、サントリー」の商品と間違えてしまうことをいいます。

このように混同を生ずるおそれがある場合には、商標登録が認められていません(いったん認められても後から無効にすることができます)。 

さらに、「福寿園、サントリー」は、そば屋なんかやらないから、どこか別の会社の商品だと思われたとしても、「福寿園、サントリー」がその別の会社との間で業務上提携関係等があるだろう(組織的経済的に何らかの関係を有する)と間違えられる場合にも、「混同」(広い意味での混同)を生ずるおそれがあるとされています。このような場合にも、商標登録が認められていません。

 本件では、正面から「混同」しないと反論しても勝てないと考え、矛先を変えようとしたのか、原告「はせ川製麺所」は、被告「福寿園(またはライセンシーであるサントリー)」が使用する商標は、次の①から⑥の構成を有し、引用商標とは(比較する対象が)そもそも異なるといった主張を展開しました。
 
 
 
①緑色の竹筒型の背景
②赤地に白色の「京都」の文字
③白抜き漢字「福寿園」
④白抜き平仮名文字「いえもん」
⑤白抜きの○茶
⑥白抜き漢字「伊右衛門」
 
 
 
 
しかし、裁判所は、商標を商品に使用する際、商標自体のデザインに修正を加えたり、容器,包装,パッケージの形状・デザインに工夫を施すことはよく行われているため、常に、上記の⑥(縦書き)白抜き漢字「伊右衛門」を①から⑤と一体で商標を構成すると解する必要はないと判断し、引用商標が使用商標とは異なるといった主張は認められませんでした。 
 
また、原告は、「緑茶飲料」と「そばの麺」では、加工の手間・売り場・保管方法に違いがあること、飲料と食品では商品の性格が違うこと、商品の包装の形態・賞味期限の長短・販売経路の相違があることなどから、商品同士に密接な関連性がなく、「混同」を生じないという主張もしました。 
 
しかし、この主張に対しても、裁判所は、相違はいうほどではなく、「茶そば」がそばの一つのジャンルとなっている上,「緑茶飲料」が料理や弁当類と同一の機会・場所で一緒に飲食されることが一般的であることなどから、「そばの麺」と「茶」には密接な関係があると判断しました。 
 
そして、福寿園が運営するカフェで,顧客に対して「茶そば」を提供している事実も取り上げ、「そばの麺」に本件商標「そば処 伊右エ門」を使用するときは,商品の出所が福寿園、サントリーらと経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるとの「混同」を生ずるおそれがあると判断しました。その結果、「はせ川製麺所」の登録商標「そば処 伊右エ門」は無効とされました。 
 
商品の密接な関連性があるかの判断は、商標の周知著名性と比例するような関係(商標が有名であればあるほど、より幅広い商品との密接な関連性が認められる)にあるように感じていますが、弁理士の立場からすると、もう少し予測可能性のある判断手法が見いだせるといいのになと思う今日この頃でした。
 

 

にほんブログ村
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿