2017年9月28日木曜日

新人奮闘日記2 第二弾「取引の実情」とは

こんにちは。はじめまして、商標部門の新人弁理士T.Wです。

私は、弁理士D.Mさんのあと6月に入所し、はや3か月以上が経ちました。
まだまだ慣れないことも多くありますが、日々の業務のほか、毎週のように繰り出されてくる新人向けの研修課題にD.Mさんと一緒に立ち向かっている毎日です。

そんな中、少し遡る7月の終わりころ、K商標部門長に突然呼ばれて、「来月8月から、(心優しい?商標部門の先輩方の計らいで)MくんとWくんが商標の判例を先輩らの前で発表する勉強会をやろうと思ってるんだけど、どうだい、やるかい?」と声をかけられました。

新人たるもの(そう思っていなくても)「もちろん、やります!」と反射的に答えたところ、すぐに日程が組まれ、D.Mさんと毎回交代で判例を分担し発表することになりました。


今回は、D.Mさんが担当した1回目の内容に続き、2回目の内容をご紹介します。
私が担当したのは、「保土谷化学工業社標事件」(事件番号:昭和47年(行ツ)第33号)と呼ばれる最高裁判所の判例です。

この判例は、ひとことで言うと(普段から結論は冒頭にわかりやすくひとことでと口を酸っぱく言われます)、商標の類否判断にあたり考慮できる取引の実情とは何かについて判決中で示された事件です。

その取引の実情とは何かを見ていく前に、商標の類否判断として何と何との商標の類否が問題となったのかを見たいと思います。ちょっと長くなりますがお付き合いください。


この事件の主な時系列は次のとおりです。
 
昭和411018日:商標登録出願(昭和41年商標登録願60685号)
昭和43615日  :拒絶査定
昭和4585日    :拒絶審決(昭和43年審判6302号)
昭和47125日  :請求棄却判決(昭和45(行ケ)101号)
昭和49425日  :上告棄却判決(昭和47(行ツ)33号)

まず、保土谷化学工業㈱が、特許庁に対して、「自社の社標のマーク」を商標登録しようと出願しました。
 
しかし、特許庁は、審査の結果、先に商標登録された「オリヱント化学工業㈱の社標のマーク」と類似するため、保土谷化学の社標のマークは商標登録できないと判断しました(拒絶査定)。その後、保土谷化学は、特許庁の審判、東京高裁、最高裁と争いましたが、商標登録は認めてもらえませんでした(拒絶審決、請求棄却判決、上告棄却判決)。

簡単に経緯を説明するとこのようになります。

 

では次に、その似ていると判断された両社の社標のマークをみてみましょう。

保土谷化学工業の社標のマーク        オリヱント化学工業の社標のマーク
昭和41年商標登録願第60685号                     商標登録第595188

                      

指定商品:旧5類                              指定商品:旧第5
「 染料、顔料、塗料(電気絶縁塗料を除く)          「 染料、顔料、塗料(電気絶縁塗料を除く) 」
 印刷インキ(謄写版用のものを除く)、
 くつずみ、つや出し剤 」
 


いかがでしょう。似ている似ていないどちらにも取れるように思えてきます。。。


ただ、一見すると、2つの六角形の亀甲(きっこう)紋章様の図形を鎖状に重ね合わせた構成というのが基本的な特徴として認識できないでしょうか。そうすると、差異があったとしても、ともに同じ基本的な構成を有するその外観上の印象が人の記憶に残り、このマークはお互いに紛らわしいといえ、外観上類似すると判断されたと考えることができると思います。

訴訟でも問題となったこの2つの商標が類似するとの結論は特許庁の審査段階から変わりませんでしたが、最後に最高裁で、取引の実情とは何かについて、その判決中で示されることになったわけです。

 ※ちなみに、現在の両社の社標はこちらです(保土谷化学の方は少し変更されたようですね)。 
  http://www.hodogaya.co.jp/  https://www.orientchemical.com/ から引用)

 
ようやく判決の内容に入りますが、その内容がこちらです。
 

「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に該商標が現在使用されている商品についてのみ特殊的、限定的なそれを指すものではないことは明らかであり、所論引用の判例も、これを前提とするものと解される。」(下線・赤字引用者)
 
この内容の理解は「一般的、恒常的」の意味などが抽象的で難しいのですが、「取引の実情」については、なんでもかんでも取引の実情に取り込んでその範囲を無限定に拡大してはいけない(その意味では変動し得る事情などを一切考慮していけないわけでもない)ということを意図したものだと私は考えています。
商品以上に商取引は無数にあるといってよく、自らに都合の良い取引の実情を探し取捨選択し、それと関連づけて商標の類否を主張立証できてしまうことが予想されます。
そこで、そのような都合の良い主張立証が将来的に頻発されることやそれによる混乱の歯止めとして、氷山印事件最高裁判決に付け加える判示をしたと私は受け止めました。
 
その他で私が一番気になった点は、保土谷化学の言い分を支える証拠というのが、書証という書面によるものがあまりなく、証人K氏による証言に大きく頼っていた点です。
保土谷化学は、染料に関する取引の実情(専門業者間で取引され、染料は色合いなどを確かめて取引する特殊な商品であるからより注意するなど)を考慮すべきと争っていました。しかし、それを支える証拠を証人K氏の証言にほとんど頼っていたのは解せません。よほどの大家の方であったのか、他に書証がなくやむを得なかったのかはわかりませんが、もし機会があれば、事件の関係者に事情を伺ってみたいです。
 
なお、この最高裁判決は、最新の特許庁商標審査基準(平成293月改訂第13版)において、判決文に沿った形(取引の実情の例については別)で取り入れられています。
  商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
  なお、判断にあたっては指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮するが、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しないものとする。 (下線・赤字引用者)
(一般的・恒常的な取引の実情の例)
  指定商品又は指定役務における取引慣行
(特殊的・限定的な取引の実情の例)
  ① 実際に使用されている商標の具体的態様、方法
  ② 商標を実際に使用している具体的な商品、役務の相違
 
一方、裁判所においても、知財高裁の判決(平成20(行ケ) 10285号)では、「商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は、当該商標が現に、当該指定商品に使用されている特殊的、限定的な実情に限定して理解されるべきではなく当該指定商品についてのより一般的、恒常的な実情例えば、取引方法、流通経路、需要者層、商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべき」(下線・赤字引用者)と具体例が示されるなどされています。
 
特許庁と裁判所では絶妙に相違しているようで、男女のすれ違いみたいで面白いのですが、このように昭和49年に出されたこの最高裁判決は、今でも影響を与えているということができます。
 
突然呼び出されたことがきっかけでたまたま担当した判例でしたが、これからもどのように扱われていくのかに着目したいと思う今日この頃でした。



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♪ 皇居ラン ♪


創英は「現場主義」をモットーにしています。いつも事務所のパソコンの前に座って仕事をしているのではなく、できるだけお客様のところに出向き、お客様と話をし、お客様の商品やサービスを見るようにしよう、という考え方です。これにより、お客様のニーズをより的確につかみ、よいサービスを提供できると信じているからです。

今週の火曜日の夕方、この「現場主義」を口実(?)に、商標部門の同僚であるU弁理士、D弁理士とともに、あるお客様のところに出かけてきました。このお客様の商標担当グループの方々は、毎週1回、みんなで皇居周辺をランニングしているということなので、前回の打ち合わせの時に「今度一緒に走りましょう!」とつい言ってしまいました^^;その「皇居ラン」企画がついに実現したのです。ただ、「皇居ラン」のために出張というわけにはいかないので、打合せに合わせて「皇居ラン」をしようということになりました。

打合せを効果的に短時間で終わらせると、ランニング・タイムです。今回は、お客様の会社から地下鉄で少し移動し、永田町にある「ADIDAS RUNBASE TOKYO(http://shop.adidas.jp/running/runbase/)という施設を起点に、「皇居ラン」を開始しました。

お客様の商標担当グループの中で、フルマラソンを何度も3時間30分くらいで軽く走っているSさんがリードをとり、健闘を誓いあうための集合写真を撮り、いざ出陣です。

 

創英のD弁理士は、この日のために、2回ほど事前練習をしたようで、とても軽いフォームで走っています。U 弁理士ももともと陸上部出身であるため、ブランクがあるとはいっても、さっそうとした走りです。私は、先週のアメリカ出張でわき腹に蓄えてきた脂肪を燃焼させるべき頑張ったのですが、誰からどう見ても、一番重そうな走りでした^^;

5㎞も走るということで、はじめは少し気が重かったのですが、夜の皇居ランは雰囲気や景色が素晴らしく、とても気持ちが良いものでした。一緒に走ったHさんは、「世界中いろいろなところを走ったが、夜のジョギングコースとしては、皇居周りが世界一だと思う。」と言っていました。確かに、すごく気持ちがいい。なんだか癖になりそうです。
 

Sさんの繊細なスピードコントロールのおかげで、みな、無事に皇居一周5㎞を走り切りました。Sさん、ありがとうございました。是非、また、一緒に走りたいです。

シャワーを浴びてさっぱりしたところですぐに帰ればよかったのですが、走ったせいかお腹がすき、ラーメン+煮卵+豚飯+生ビールを楽しんでから帰宅したことは、あまり大きな声では言えません^^;
(商標部門長 T.K.

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2017年9月26日火曜日

♪ IPO Annual Meeting ♪


 先週、IPO (Intellectual Property Owners Association:米国知的財産権者協会)のアニュアル・ミーティングに参加するため、サンフランシスコに出張しました。IPOは、その名の通り知的財産権者がメンバーとなっているので、アニュアル・ミーティングにも多くの企業内知財実務家が参加しています。

今回は、IPOのアジア実務委員会(Asian Practice Committee)で、発表をしてきました。発表のテーマは、「特許権の国際消尽」です。私は、現在は商標部門で仕事をしていますが、もともとは特許実務家でしたので、特許の国際消尽というテーマにもなじみがあります。あらかじめ委員会メンバーの一人から教えてもらった委員会の裏話をジョークとして盛り込み、また、プレゼン資料には図表をふんだんに使い、楽しくわかりやすいプレゼンができたかなあ、と自負しています。
 
 

IPOのアニュアル・ミーティングは3日間にわたって開催されました。昼間は、特許と商標のグループに分かれ、いろいろなテーマでの真面目なセッションが行われます。しかしながら、夜になると、参加者のネットワーキングのために楽しいイベントが用意されています。今回の目玉は、メジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地であるAT&Tパークでのパーティです。このパーティでは、いくつかの小グループに分かれて、グランドやベンチに行ってみることもできました。貴重な体験です。
 

せっかくサンフランシスコに来たので、空き時間に、中華街に行って飲茶を堪能したり、海沿いをジョギングしたりもしてみました。仕事も真面目、遊びも真面目が創英のモットーですので。。。




 

(商標部門長 T.K.

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2017年9月5日火曜日

【新人奮闘日記】 第一弾は「商標の類似」です!


はじめまして

商標部門新人弁理士のD.Mです!

僭越ながら初投稿させて頂きます。

 

4月に入所して早くも5か月が過ぎようとしていますが、まだまだ新人研修の真最中。時には厳しく、そして時には厳しく、尊敬する先輩方にご指導していただいています!

 

そんな中、先日、商標の判例を発表する研修がありました。

テーマは「商標の類似」。

 

新人たる者、基礎が肝心ということで、判例を通じて「商標の類似」について調べてみました。

 

まず、拒絶される商標を規定する第4条の中に、以下のような規定があります。



第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの


 

 簡単に言ってしまうと、「先に出されている登録商標と同一又は類似の商標は登録されない」といったことが書いてあります。(なお指定商品役務同士も同一又は類似の必要があります。)

 

では、具体的に「類似」とはなんでしょうか?

実は条文には書いてありません。

 

「見た目」が似ていれば類似なのか

「読み方」が似ていれば類似なのか

「意味」が似ていれば類似なのか

「類似」といっても、様々な類似が考えられると思います。

 

そこで今回は、商標の類似が争われた「氷山印事件」を紹介させて頂きます。

 
      <本件商標>            <引用商標>                                                        

    
 
    指定商品:旧26類 硝子繊維     指定商品:旧26類 糸

 
 特許庁の審査及び審判段階では、本件商標は引用商標によって登録を認められませんでした。

 理由は、称呼が似ているから。つまり「読み方」が似ているとして特許庁は類似と判断しました。(なお、指定商品同士は類似します。)

 具体的には、本件商標から「ようざん」の称呼が、引用商標からは「ようざん」の称呼が生じ、異なる点は、語頭の「ひ」と「し」のみであることから類似と判断されました。

 

しかしながら最高裁では、

 


商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
 

 

と述べられ、結果的には非類似との判断がなされました。

 

簡単にポイントを整理すると、

   商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれで判断していく。

具体的には、

外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に
考察していく。

   商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づ
  いて判断していく。

 

の2点が重要と思われます。

 

まず、ポイント①

商標の類否は、見た目だけ、読み方だけ、意味だけで判断するわけではなく、見た目・読み方・意味等から総合的に判断していき、商品役務の出所が混同するかどうかで判断をしていくべきだと述べられています。

 
この点、今回のケースでは、外観や観念が異なるため非類似と判断がなされました。

 
また、ポイント②

 今回のケースで言うと、本件商標の指定商品である「硝子繊維」は高価なものであり、専門知識を有する人しか購入しないといった実情がありました。

 この実情が考慮され、高価なものを専門家の方が購入する場合には、より一層の注意をして購入をするとして、商標の称呼だけが似ていても、外観や観念が異なるため、混同しないとの判断がなされました。

 

 

 個人的にはこの判断手法は正しいと考えています。人間が類似を判断する場合には、単純に「見た目」だけ、「読み方」だけ、「意味」だけ、で判断するのではなく、それらを混在させたイメージで判断をすると考えるからです。

 

 以上簡単にですが、氷山印事件について紹介させて頂きました。

 

 改めて読み直してみると様々な発見があり、まだまだ勉強することが多いなと実感しております。今後とも学びを怠ることなく、常に知識を吸収していきたいと思います!  
                                 新人弁理士D.M

 


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